=はやわかり=設楽ダムは要らない!

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設楽ダム事業の根拠がないことが明らかになりました!

豊川水系フルプラン(2006(H18)年2月)は、2015(H27)年における東三河の水道用水需要が破線矢印のように増加するとの想定を行い、近2/20かっすい年には水源の供給能力が落ちて需要(最大給水量)をまかなえない事態になると想定しました。愛知県は、フルプラン想定に基づき、設楽ダムの貯水から水道用水を取水するとして、設楽ダム建設事業に参画しています。フルプランの目標年の2015(H27)年を過ぎた現在、東三河の水道用水の供給実績(実線矢印が示す減少傾向)から、フルプランの需要想定が実態を無視した過大なものであることが明らかになりました。かっすい年においても供給不足は想定されません。
2006年に全部見直しがなされた現行フルプランの目標年が過ぎた現在まで、5年目の中間点検も含めて、計画の総括点検が全くなされていません。設楽ダム建設事業に支障があるためでしょうか?真実を覆い隠したまま、でたらめな事業を強行する国の姿勢は許されないものです。
愛知県は、設楽ダムに設定した水道用水の使用権を取り消し、ダム事業から撤退するべきです。
フルプラン‗水道用水実績

水道用水供給目的が法律上の根拠

国土交通省の直轄事業である設楽ダムは、ダム貯水を利用して、水道用水を供給するために使うことが、法律(特定多目的ダム法)上の根拠となっています。
豊川水系水資源開発基本計画(略称:豊川水系フルプラン)では、東三河地域の水道用水は、豊川用水と豊川総合用水事業で開発済みの水源施設の計画供給水量で十分足りているものの、10年に一度程度発生するかっすい年には、供給能力が計画の62%まで落ちて、需要(H27年目標)とほぼ同じか不足すると想定し、その分をダム貯流水から供給する目的で、設楽ダム建設事業が位置づけられました。
ところが、水道供給の実績は一日最大給水量、一日平均給水量ともに、年々減少を続けており、目標年のH27年を過ぎて、フルプラン想定の需要量は著しく過大であったこと、また、かっすい年にも不足しないことがはっきりしました。(グラフ図参照)

設楽ダム事業の実質的責任は愛知県にある

水道事業者は各市町ですが、愛知県が県営水道を通じて各市町に水道用水を供給するために、設楽ダム貯流水を使用する権利を設定しています。東三河の水道用水の需要は近年減少を続けており、すでに人口の減少期に入っていることから、今後水需要が増える見こみはありません。設楽ダムは、国が建設する事業ですが、その法律上の根拠を与えているのは、愛知県に他なりません。愛知県が設楽ダム建設事業の実質的な責任を負っているといっても過言ではありません。

愛知県が水道用水のダム使用権を返上すれば設楽ダムは止まる

愛知県が水需要の想定が過大であったことを認め、設楽ダム使用権の設定を解除すれば、事業は法律上の根拠を失って白紙に戻り、県民が長期にわたって高い水道料金を支払うことを予防することができます。現在、本体工事に取り掛かる前の最後の事業見直しの機会であり、知事の判断が求められています。

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特定多目的ダム法と特定多目的ダム

設楽ダムは、特定多目的ダム法に基づいて、国土交通大臣が新築するものです。特定多目的ダム法は、1957(昭和32)年に、高度経済成長政策の実現のために作られた法律の一つで、とっくにその使命は終えています。その第二条に、「特定多目的ダム」が次のように定義されています。設楽ダム事業では、「特定用途」のうち、愛知県が使用権設定をする水道用水のほかには、発電および工業用水の用途は含まれていません。

≪特定多目的ダム法≫

第二条 この法律において、「多目的ダム」とは、国土交通大臣が河川法第九条第一項の規定により自ら新築するダムで、これによる流水の貯留を利用して流水が発電、水道又は工業用水道の用(以下「特定用途」という。)に供されるものをいい、・・・。
2 この法律において「ダム使用権」とは、多目的ダムによる一定量の流水の貯留を一定の地域において確保する権利をいう。
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豊川用水の大半は農業用水
豊川用水のおよそ65%を占める農業用水については、計画に比べて耕地面積(特に水田面積)が大幅に減っていることから、水は足りており、現行の面積当たりの料金(賦課金)方式を変更して使用水量当たりの料金方式を採用すれば大幅な節水が期待できます。

ダムが下流の水害対策に役立つのは極めて限られた場合で不確実

豊川最上流部に流域面積の10%をカバーする一点豪華なダムを造っても、洪水被害をなくすことはできません。カバーできない90%の流域に降った雨を調節できないからです。この90%に含まれる支流宇連川方面には既設の宇連ダムや大島ダムがありますが、治水機能はありません。台風が西から東方向に通過する際に、豊川流域では最も東側に当たる静岡県境沿いの宇連川流域で降る終盤の豪雨が下流部の出水を大きくする傾向があります。このような場合の洪水に対して、設楽ダムはほとんど効果がありません。
ダム事業者の国土交通省中部地方整備局が、戦後最大洪水と同程度の洪水の際に新城市石田で約60cm水位を下げ、150年に一度の大洪水の際には約1m水位を下げる効果をうたっていますが、それは机上の計画洪水のとおりに雨が降り、出水があった場合に想定されるもので、設楽ダムにそれだけの効果が必ずあるというわけではありません。なお、150年に一度の大洪水の際には、水位が1m下がったとしても、破堤して大きな水害が発生する恐れがあります。

河道と堤防整備が治水の基本・・・ダムに比べて確実ではるかに安い!

2001年に設楽ダムを含む形で作られた豊川水系河川整備計画の河道や堤防の整備は13年ほど経過した現在までに、下流部から進められて最上流部の牟呂松原頭首工付近まで一通り完了済みで、治水上の大きな課題はほぼ解消されています。この間、狭くて曲がった豊橋市大村地区の旧堤が改築され、また、洪水の水位がもっとも高くなる新城市一鍬田地区の河道整備(浚渫)が2014年には完成し、約2mの水位低下が見込まれます。河道整備と壊れにくい堤防は、雨の降り方が変わっても確実に効果を発揮し、必要なコストはダムに比べてはるかに安いのです。なお、上流にダムが完成した場合でも、河道や堤防の維持管理は継続されなければ安全確保はできません。

新城市一鍬田の河道浚渫、高さ5mもの土砂を掘削
して流路を広げた

一鍬田の河道掘削

豊川流域には近世から受け継いだ遺産、遊水機能が備わっている

豊川下流部では、過去の治水事業で行明地点から前芝にかけて放水路が建設され、右岸側が連続堤に改修されましたが、左岸側には4か所の不連続堤・遊水地が残っています。近世以来「鎧堤」(「霞堤」と行政は呼んでいますが、典型的な霞堤とは異なる形態と機能を持っています。)と呼ばれてきた土木遺産で、大洪水の際には遊水機能を発揮して、洪水流をやわらげ、破堤による破滅的な水害を防ぐ働きをします。この郷土の遺産を受け継ぐとともに、遊水地にある農地の浸水被害を補償する仕組みや、洪水時の浸水(遊水)に対する地域や交通の安全対策を整えることこそ必要です。河川整備計画には開口部に小堤(低い堤防)を設ける方針が示されていますが、「設楽ダムができたら左岸側の霞堤(開口部)を閉め切る」との一部政治家の発言は根拠のないデマです。

既設の利水ダム(宇連ダム、大島ダム)に限定的な治水機能を持たせる

気象予測技術が進んだ現在、宇連ダム、大島ダムが満水状態で台風が直近を通過すると予測される場合に事前放流を行う仕組みを取り入れることは、豊川下流の治水対策として有効です。

「自然に優しい設楽ダムづくり」の怪?

設楽ダムでは、有効貯水容量9,200万m3の大半65%を「流水の正常な機能の維持」目的のために充てています。設楽ダムの貯流水を使って「川に一定量の水を流し」て、支流宇連川の水枯れを回復させ、豊川下流の維持流量を増やすことを「自然に優しい」というらしいのです。これによって環境を悪化させることはあっても改善させることはありません。

宇連川の水枯れ対策は、取水地点の変更と森岡導水路の活用で!

大野頭首工下流の宇連川下流部の水枯れ問題は、宇連川の流水を豊川用水へ全量取水することが原因です。豊川用水の取水のしかたを工夫して解決するべきことで、設楽ダムを建設して川に流れを取り戻すというのは筋違いです。豊川用水の取水量のうち一定量(例えば工業用水毎秒1 m3)を大野頭首工地点で取水せずに維持流量として下流に流し、14kmほど下流の牟呂松原頭首工から牟呂用水幹線水路を経て森岡地点で取水し、森岡導水路によって豊川用水東部幹線水路に合流させれば解決します。

アユの産卵条件、水道水源の塩水化防止に設楽ダムは不要

また、牟呂松原頭首工下流の維持流量を現在の2 m3/sから5 m3/sに引き上げる理由として、事業者が挙げている主な二点、アユの産卵条件の確保と下流の水道水源の塩水化防止については、現状の豊川の流況でどちらも特に問題は生じていません。現状でアユ産卵時期の10~11月に5m3/秒を下回る日はほとんどありません。また、水道水源に塩水が混じるようになった場合には、別水源への一時的切り替えで対応できます。

アユの産卵‗豊川

産卵に集まった豊川のアユ(新村安雄氏撮影)

「流水の正常な機能の維持」が引き起こす環境破壊

大雨による洪水流や雨後の増水とその後のゆっくりした減水など、自然の河川は、「変化する水の流れ」によって、植生が生えない川原や瀬と淵を繰り返す川の構造が維持されています。ダムの貯水で雨後の増水がなくなり、ダムからの放流による「一定の流れ」となれば、川の自然な生態系は維持されません。砂礫は動かず、磨かれず、細泥に埋もれた状態となり、天然記念物のネコギギや多くの清流魚は生息場所を失います。ダム事業者が目指している「一定量の水の流れ」は、川の生態系を壊すばかりでなく、海にまで影響を及ぼします。とりわけ、設楽ダムの運用計画に沿って、降水量の多い夏季に貯水して、河川水量の少ない冬季に放流することは、三河湾の夏季の海水交換を衰えさせ、最大の問題となっている貧酸素水塊の発達や青潮被害を拡大させる最悪の結果をもたらします。また、設楽ダムの堆砂で、川底の砂礫や三河湾の干潟・浅場の砂が減って、アユやアサリなど漁業資源や、生物多様性への影響も深刻となります。
ダムが河川環境を徹底的に破壊し、その影響が海にまで及ぶことは、佐久間ダム建設から50年以上経過した天竜川水系を見れば一目瞭然です。同様に、豊川水系の宇連川でも、支流の一部を除いてアユをはじめとする魚類の育たない川となっています。
設楽ダム事業の「川に一定量の水を流す」目的は、肯定できる内容は一つもありません。「流水の正常な機能の維持」や「自然にやさしいダムづくり」を掲げて環境影響の著しい“大規模公共事業”を強行する事業者(中部地整)のやり口は、詐欺としか言いようがありません。

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