設楽ダム問題資料データベース

設楽ダムの建設中止を求める会

設楽ダム建設に関するシンポジウムや、問題資料を公開しております。
2007年から活動を始め、その間の様々な資料を、今後の検証資料として、また、時代への警鐘として公開しています。

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 ≪設楽ダム計画について≫

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設楽ダムは水源確保の目的を失い、正常流量のための“ダム計画”となった!

「流水の正常な機能維持」を主目的とする他に例のないダム計画

総貯水容量約1億m3の設楽(したら)ダムは、愛知県東部の三河山地に発し渥美湾(三河湾東部)に注ぐ豊川(とよがわ)の最上流域に国土交通省が計画、これからダム本体の建設にかかろうとしている。
現計画の前1960年代のはじめに、ほぼ同じ地点に電源開発が5千万m3規模の発電ダムを計画して調査に入ったが、すぐに撤退した。地盤がよくないことが撤退理由であったと思われる。
現在の計画に直接つながるのは、1973年に愛知県が地元に示した8千万m3規模の多目的ダム案であるが、2度変更された結果、総貯水容量9800万m3でその内訳は、治水容量1900万m3、不特定容量6000万m3、新規利水容量1300万m3、堆砂容量600万m3の計画となっている。
この目的別貯水容量の数値からみて、設楽ダムの主目的は、治水でも利水でもなく、不特定容量(流水の正常な機能の維持容量)であることがわかる。この6000万m3をどのように使おうとしているのか、事業者の説明は以下である。
「豊川水系宇連川の大野頭首工(豊川用水の取水堰)下流で川の水がなくなる断流が生じているので毎秒1.3 m3の維持流量を確保する、また豊川の中流部にある牟呂松原頭首工下流の河川流量が少なく、現状の毎秒2m3より5m3に維持流量を増やすことが必要である。主としてこの二か所について、流水の正常な流量を維持するために、ダムで水を貯める必要がある。」
こうして、渇水期の川に水を流すために巨大ダムを造って水を貯める(流水を溜まり水にする)というのである。流水を溜めこんで、流水の正常な機能の維持のために使うというのは、全く理解に苦しむことである。巨大なダムを造れば、川から海まで大きな環境影響をひき起こすことは目に見えているのに、その目的が“流水の正常な機能の維持”というのは“羊頭狗肉”を通り越して何の言うべきか、言葉を失う。
堆砂容量を除いた有効貯水容量9200万m3の65%、さらに洪水調節容量を除いた利水容量7300万m3の実に85%に当たる6000万m3が、「流水の正常な機能維持」のための容量という前代未聞のダム計画である。

水あまりの下での新規水資源開発

≪豊川水系水資源開発基本計画(豊川水系フルプラン)≫

新規利水容量1300万m3が掲げられているが、その根拠とされる「豊川水系水資源開発基本計画」を詳しく見てみると、水道用水、工業用水ともに大幅な水余りとなっている。「10年に1度程度の渇水年においても節水しなくてもよいように水資源を開発する」のが目的とされているが、すでにこの目的は達成済みである。
設楽ダムは、特定多目的ダム法に基づいた多目的ダムで、愛知県水道用水の約500万m3のみを法的根拠としているが、新規の水道用水を開発する必要性はない。したがって、愛知県(県営水道の経営体としての愛知県企業局)が水道用水を「足りているので、設楽ダムに水源を求めません」というだけで、このダム計画は破綻する。
もう一つの新規水源が農業用水にあてられているが、2001年度に完成した豊川総合用水事業によって、供給可能量が大幅に増えて水余りになっている実態を伏せて、根拠数値を明らかにしないまま、毎秒0.5 m3だけ新規水資源が必要であり、設楽ダムでそれを開発するとされている。
大幅に余っている工業用水は設楽ダムでは開発しない。
豊川水系における実際の水需要量と、開発済みの水供給量(水道用水、工業用水、かんがい用水の合計)の比較をしてみれば、以下のとおりである。豊川総合用水事業が完成した2002年度以降、開発済みの水資源(既開発水量)は、3億8000万m3であるのに対して、実際の需要量は2億7000万m3程度であり、政府による2015年の需要予測(これ自体かなり高めに見積もられている)でさえ3億4000万m3で、十分に既開発水量の枠内に収まっている。つまり、水は不足しているどころか余っているのに、さらに巨大ダムを造って開発水量を増やそうという計画である。

 洪水対策として意味がないダム計画



洪水調節容量1900万m3についてみれば、最上流部の限られた流域(豊川流域面積の9%)をカバーする設楽ダムによって豊川下流の洪水を抑制するのは困難であることは誰にもわかる。豊川下流域には、中世以来の不連続堤・遊水地が現存し、大きな洪水の際には遊水機能を発揮している。上流域森林の適切な保全管理、水田の洪水調節機能の活用、堤防の強化などに加えて低地の開発を規制するなど、流域全体で総合的に水害の抑制を図ることが本来の治水のあり方であり、ダムに頼ろうとするのはかえって危険であることを多くの例が示している。
すでに、河道改修、堤防の補強による洪水対策はかなりの進捗をしており、豊川下流部の水害対策としての設楽ダム建設の緊急性はない。地震によるダムがらみの複合災害も含めて、流域住民の安全を第一に考えれば、ダムという選択肢は採用しないのが正常な判断というものだろう。

著しい環境影響の恐れ

 設楽ダムは、治水上も、利水上も不要であり、典型的な無駄な事業である。そればかりか、以下にみるように環境への影響は途方もなく広く深いもので、流域住民が将来にわたって健康で豊かな生活を続けていく前提となる自然環境の健全さを破壊する有害極まりない事業であると言える。



① 水没する森、渓流、里山

約300haの渓流沿いの豊かな森、100戸余りの住家と田畑が水没する。すでに大半の民家が立ち退きをし、かつてあった谷筋の田畑と小さな集落跡が荒れ地に変わりつつある。奥三河・設楽地域のもっとも豊かな地味の谷筋の生態系を人々が太古の昔から活用してきたところを失うのだ。水没予定地にはクマタカの繁殖縄張りも重なっている。伊勢・三河湾流域の固有種、国の天然記念物で、かつ絶滅危惧種のネコギギの棲息する淵も水没する。ナガレホトケドジョウ(東海個体群)という希少種が棲む渓流も含まれる。



② ダム湖ができることによる環境影響

 森林から湧き出る清流を塞き止め、溜まり水へと変えることにより、水質に大きな変化が生じる。流域から流入する落ち葉などの有機物の蓄積、淡水プランクトンの発生と死骸の沈殿、夏季の成層(低温で酸欠の水が深層に発達)などが生じる結果、湖水は腐敗臭が漂うまでに富栄養化する。ダム湖には、ケイ酸塩、リン酸塩などとともに大量の土砂沈殿堆積する。



③ ダムによる流れの分断とダム下流部への影響

 川は源流部まで生物が行き来する生き物の通う道でもあるが、ダムはこれを断ち切る。ウナギや降海性アマゴが上り下りする通路がふさがれてしまう。カワネズミなどの渓流に棲む小型哺乳類の移動も不可能になるだろう。さらにダムの下流の河川環境も大きく影響を受ける。ダムが降水を貯めこむため、雨後におきる中小洪水がほとんど発生しなくなり、砂礫の流れが止まる。そのため、鮎の育つ清冽な谷川として有名な寒狭川上流部は、川底や転石を洗い流して新鮮な珪藻が育つ状態を維持することができなくなり、ダム湖からの濁った細い流れに変わるだろう。



④ 渥美湾(三河湾東部)への影響

 豊川水系の既設のダムに加えて、設楽ダムがダム湖に沈殿させるため、土砂、ケイ酸塩、リン酸塩などの三河湾への流入が減少し、三河湾の生物生産、魚介類の生育に大きな影響が出る。“流水の正常な機能の維持”のために設楽ダムは雨の多い夏季に水を貯めるので、三河湾へ注ぐ豊川の流量が夏季に減る結果、渥美湾奥の海水の交換がいっそう弱くなって、貧酸素による深刻な三河湾生態系の破壊、魚介類の生育にも影響が出ることは疑いない。

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住民・市民の取り組み

2004年12月に環境影響評価方法書の縦覧手続きが始まって以来、私たちは、住民意見書を出す市民運動や、問題点を明らかにする市民フォーラムを開くなど取り組んできた。
しかしながら、国と愛知県は、初めにダム建設ありきの姿勢で市民の意見など聞く耳を持たず建設強行に突き進みつつあったので、2007年2・3月に住民監査請求、4月提訴で、愛知県を相手に設楽ダム建設事業への公金支出差し止めを求める住民訴訟をおこし、取り組んできた。この訴訟には原告168名が、これを支える「設楽ダムの建設中止を求める会」には約600名が参加し、2014年5月に最高裁が上告棄却の決定をするまでの7年余りの取り組みをした。訴訟のほかにも設楽ダム建設事業の基本計画を審議する県議会への働きかけ(8000名の署名・陳情にもかかわらず、県議会はこの3月に基本計画案に賛成した)をはじめ、さまざまな取り組みを現在まで続けてきている。流域の環境保全型地域づくりの勉強会を開くなどの活動をしている。

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