設楽ダム建設中止を求める会

設楽ダム計画の問題!

「流水の正常な機能維持」を主目的とするおかしなダム計画

総貯水容量約1億m3の設楽(したら)ダムは、愛知県東部の三河山地に発し渥美湾(三河湾東部)に注ぐ豊川(とよがわ)の最上流域に国土交通省が建設を計画している。現計画に直接つながるのは1973年に愛知県が地元に示した8千万m3規模の多目的ダム案であるが、2度変更された結果、総貯水容量9800万m3でその内訳は、治水容量1900万m3、不特定容量6000万m3、新規利水容量1300万m3、堆砂容量600万m3の計画となっている。この数値からみて、設楽ダムの主目的は、治水でも利水でもなく、不特定容量(流水の正常な機能維持容量)であることがわかる。この6000万m3をどのように使おうとしているのか、事業者は次のような説明をしている。「豊川水系宇連川の大野頭首工(豊川用水の取水堰)下流で川の水がなくなる断流が生じているので毎秒1.3 m3の維持流量を確保する、また豊川の中流部にある牟呂松原頭首工下流の河川流量が少なく、現状の毎秒2m3より5m3に維持流量を増やすことが必要である。主としてこの二か所について、流水の正常な流量を維持するために、ダムで水を貯める必要がある。」こうして、川に水を流すために巨大ダムを造って水を貯める(流水を溜まり水にする)というのである。堆砂容量を除いた有効貯水容量9200万m3の65%、さらに洪水調節容量を除いた利水容量7300万m3の実に85%に当たる6000万m3が、「流水の正常な機能維持」のための容量という前代未聞のダム計画である。

水あまりの下での新規水資源開発

新規利水容量1300万m3が掲げられているが、その根拠とされる「豊川水系水資源開発基本計画」を詳しく見てみると、水道用水、工業用水ともに大幅な水余りとなっており、水資源が不足しているとは言えず、「10年に1度程度の渇水年においても節水しなくてもよいように水資源を開発する」のが目的とされている。水道用水の約500万m3のみが特定多目的ダム法の根拠になる数値であるが、法的根拠すら疑わしいダム計画である。農業用水については、2001年度に完成した豊川総合用水事業によって、供給可能量が大幅に増えて水余りになっていることを伏せて、根拠数値を明らかにしないまま、毎秒0.5 m3だけ新規水資源が必要であり、設楽ダムでそれを開発するとされている。

実際の水需要量と、開発済みの水供給量の比較をしてみれば、以下のとおりである。豊川総合用水事業が完成した2002年度以降、開発済みの水資源(既開発水量)は、3億8000万m3であるのに対して、実際の需要量は2億7000万m3程度であり、政府による2015年の需要予測(これ自体かなり高めに見積もられている)でさえ3億4000万m3で、十分に既開発水量の枠内に収まっている。つまり、水は不足しているどころか余っているのに、さらに巨大ダムを造って開発水量を増やそうという計画である。

洪水対策として意味がないダム計画

洪水調節容量1900万m3についてみれば、最上流部の限られた流域(豊川流域面積の9%)をカバーする設楽ダムによって豊川下流の洪水を抑制するのは困難であることは誰にもわかる。豊川下流域には、中世以来の不連続堤・遊水地が現存し、大きな洪水の際には遊水機能を発揮している。上流域森林の適切な保全管理、水田の洪水調節機能の活用、堤防の強化などに加えて低地の開発を規制するなど、流域全体で総合的に水害の抑制を図ることが本来の治水のあり方であり、ダムに頼ろうとするのはかえって危険であることを多くの例が示している。地震によるダムがらみの複合災害も含めて、流域住民の安全を第一に考えれば、ダムという選択肢は採用しないのが正常な判断というものだろう。

著しい環境影響の恐れ

設楽ダムは、治水上も、利水上も不要であり、典型的な無駄な事業である。そればかりか、以下にみるように環境への影響は途方もなく広く深いもので、流域住民が将来にわたって健康で豊かな生活を続けていく前提となる自然環境の健全さを破壊する有害極まりない事業であると言える。

① 水没する森、渓流、里山

約300haの渓流沿いの豊かな森、100戸余りの住家と田畑が水没する。森に取り巻かれた田畑と小さな集落が谷筋の緩やかな斜面に広がり、谷間の中央を渓流が水しぶきをあげる。豊川上流、奥三河・設楽地域のもっとも豊かな地味の谷筋の生態系を人々が太古の昔から活用してきたところが水没してしまうのだ。水没予定地にはクマタカの繁殖縄張りも重なっている。伊勢・三河湾流域の固有種、国の天然記念物で、かつ絶滅危惧種のネコギギの棲息する淵も水没する。

② ダム湖ができることによる環境影響

森林から湧き出る清流を塞き止め、溜まり水へと変えることにより、水質に大きな変化が生じる。流域から流入する落ち葉などの有機物の蓄積、淡水プランクトンの発生と死骸の沈殿、夏季の成層(低温で酸欠の水が深層に発達)などが生じる結果、湖水は腐敗臭が漂うまでに富栄養化する。ダム湖には、土砂、ケイ酸塩、リン酸塩などが沈殿堆積する。

③ ダムによる流れの分断とダム下流部への影響

川は源流部まで生物が行き来する生き物の通う道でもあるが、ダムはこれを断ち切る。ウナギや降海性アマゴが上り下りする通路がふさがれてしまう。カワネズミなどの渓流に棲む小型哺乳類の移動も不可能になるだろう。さらにダムの下流の河川環境も大きく影響を受ける。ダムが降水を貯めこむため、自然の川で雨後におきる中小洪水がほとんど発生しなくなる。そのため、鮎の育つ清冽な谷川として有名な寒狭川上流部は、川底や転石を洗い流して新鮮な珪藻が育つ状態を維持することができなくなり、ダム湖からの濁った細い流れと変わる。

④ 渥美湾(三河湾東部)への影響

豊川水系の既設のダムに加えて、設楽ダムがダム湖に沈殿させるため、土砂、ケイ酸塩、リン酸塩などの三河湾への流入が減少し、三河湾の生物生産、魚介類の生育に大きな影響が出る。豊川用水への取水がさらに増えることから、三河湾へ注ぐ淡水量が減る結果、エスチュァリー循環が弱まり、閉鎖性が強く深刻な汚濁状況にある三河湾の海水交換は一層弱くなる。

住民・市民の取り組み

2004年12月に環境影響評価方法書の縦覧手続きが始まって以来、住民意見書を出す市民運動や、問題点を明らかにする市民フォーラムを開くなど取り組んできた。国と愛知県は、初めにダム建設ありきの姿勢で市民の意見など聞く耳を持たず建設強行に突き進みつつあったので、2007年2・3月に
住民監査請求、4月提訴で、愛知県を相手に設楽ダム建設事業への公金支出差し止め住民訴訟に取り組んでいる。この訴訟には原告168名が、これを支える「設楽ダムの建設中止を求める会」には約600名が参加し、訴訟のほかにも設楽ダム建設事業の基本計画を審議する県議会への働きかけ(8000名の署名・陳情にもかかわらず、県議会はこの3月に基本計画案に賛成した)や、流域の環境保全型地域づくりの勉強会を開くなどの活動をしている。

住民投票を求める運動

ダム建設の地元である設楽町では、1974年の町ぐるみのダム反対の意志表明いらい、国と県の圧力を受け続けて、次第に受け入れやむなしの方向へと行政がなし崩しに追いつめられてきたが、町民に情報開示せずに行政主導で町の命運を勝手に左右されては困るという住民の声を集約する形で、住民有志が住民投票を求める会を2008年3月に立ち上げ、会員を急速に広げている。さる5月31日には「中止を求める会」が吉野川第十堰の可動堰化を住民投票で止めた徳島から姫野さんをお呼びして新城市内で勉強会を開いた。この夏には住民投票条例制定・住民投票実施に向けての運動が本格化する予定である。

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