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渥美半島の大規模風力発電計画

 風力発電設置地図を表示する

渥美半島の付け根部分に中部電力(株)が大規模風力発電計画を準備している。
以下、問題点などについて、環境アセスメント学会誌に投稿した技術レポートの内容を紹介する。

風力発電施設の立地と鳥の生息環境について

                            市野和夫*・大羽康利** 
はじめに
 近年、風力発電施設の設置が全国的に進んできている。2010年までに1990年の6%という二酸化炭素削減目標との関係で、政府の新エネルギー導入政策が待ったなしの状況に追い込まれている背景がある。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2005年にまとめた「風力発電ロードマップ」では、2020年1000万kW、2030年2000万kWという高い目標を掲げている。2006年3月末現在の日本の開発容量は、世界の約2%に当たる100万kW(2006年3月現在)に過ぎないから、これはとても高い目標値である。NEDOおよび新エネルギー産業会議は、「風力発電に対する規制緩和」と「洋上発電基地の開発」をその切り札として提起している(注1)。本格的な洋上発電への助走として、2010年までに陸上で300万kWと3倍化を目指している。
 このように、政府が風力発電に力を入れる長期的な方針を出したことにより、風力関連ベンチャー企業、電力会社などの投資意欲が活性化され、全国的な「風力開発ブーム」が起きている。当面は、実証試験を待つ洋上発電基地ではなく、未開発の陸上適地の開発に力が入れられている。
 風力発電施設による環境影響は、景観、騒音、低周波、気流の乱れ、野鳥への影響、航空機のための夜間照明による影響、管理用道路および基礎工事に絡む問題など多様であり、自然エネルギーだからこれらの環境影響に目をつぶるというわけにも行かない。とりわけ大規模風車が林立する大規模発電基地の場合には、慎重な環境影響評価が必要である。

鳥の渡りルート上の風力発電計画(中部電力)とその問題点
 細長い日本列島において、渡り鳥類の移動は北東方向から南西方向へ、またその逆方向への季節的移動が顕著である。季節的移動の主要な通路はほぼ決まっており、日本列島中央部の海岸線沿いの隘路となっている渥美半島は、サシバやハチクマの渡りで、全国的・世界的にも有名な鳥の集中する場所である(注2)。渥美半島の先端、伊良湖岬における渡り鳥の調査結果はよく知られており、さすがに伊良湖岬に風力発電基地を造ろうとする計画は出ていないが、周辺には2006年末までに3地点、それぞれ1基、6基および4基合計11基の風力発電施設が建てられた。渥美半島のつけ根部分では、三河湾側の埋立地に1箇所11基が既に設置されている。
 今回、愛知・静岡県境地域の遠州灘に面した海岸線に大規模な計画が公表された。この11月に発表された中部電力の計画は、日本列島のほぼ中央部、愛知県豊橋市の小島町から東細谷町、さらに静岡県境を越えた湖西市長谷地区にかけて、5km程の遠州灘の海岸線に沿って13機の発電風車がおよそ400mの間隔で並ぶものである(注3)。
 風車の規模は、1機当たりの発電容量が2000kWと、最大級のものとされている。地上高が100~120m、回転翼の半径40m、3枚羽根で毎秒1/3回転するものとして、翼端の回転速度はおよそ84m/秒で、回転面内を毎秒1回の頻度で羽根が通過する。高速で回転する羽根の先端部は、至近距離からは視認できない。
 この計画の最大の問題点は立地の問題である。計画されている場所が鳥類の重要な移動経路に重なっているのである。伊良湖岬およびそのすぐ近傍以外の渡りの経路は、野鳥関係者の間でも、必ずしも詳しく認識されているわけではない。この計画があるらしいとの地元のうわさを耳に挟んだ筆者が、この秋に数回の目視調査をした結果、予定地は渥美半島の先端部に向かう秋の渡りの主要な経路の一つであると推定できた。例えば、10月10日午前6時50分から8時30分までの1時間40分の間に、細谷地区の上空を通過したのは、ヒヨドリ4460羽、カケス174羽、サシバ5羽、他に多数のツバメ、ハクセキレイ、メジロの移動が見られたほか、数は少ないが、アカゲラ、カワウなどの飛翔が見られた(注4)。
 地形と気象条件によって変化する気流に反応しながら、視覚に頼って飛行する鳥類にとって、遠くからは視認できたとしても、渡りの移動経路上に林立する風車を避けて飛ぶことで消耗しないのか、接近してしまった場合の衝突の可能性はどうなのかなど、慎重に検討する必要がある。ヒヨドリなど小鳥の渡りは、数十羽、時には数百羽が一塊となって、ほぼ決まったルート上を移動して行く。その渡りの流れを追いかけ、待ち伏せして捕食する猛禽が出没するたびに、渡りの群れの動きは撹乱される。このような渡りの道筋に沿って巨大風車が立ち並んだ場合、その影響は、捕食する側・される側ともに衝突を含めて深刻なものがあると予想される。
 夏鳥の秋の渡りは8月に始まり、冬鳥の渡来は12月まで続く。春の渡りは2月中下旬から5月いっぱいまで続く。渥美半島・遠州灘沿岸の温暖なこの地域は、冬鳥の越冬地としても重要である。冬季にはオオタカ、ハイタカ、ノスリ、チュウヒ、ハヤブサ、チョウゲンボウなどの猛禽類が、小鳥類や小動物などの餌を求めて飛翔する姿が頻繁に目撃されており、予定地及び近傍に長期間滞在する個体も稀ではない。少数ながらオジロワシ、オオワシなどの姿を見ることもある。また、遠州灘と三河湾の間を行き来するカモ類、カワウなどの水鳥やミサゴ(魚食性の大型の鷹)の移動が東西方向の渡りの経路を横断するように重なる。サギ類やカモ類、カモメ類、多くの小鳥類は夜間にも移動しており、その夜間行動の多くは未解明である。
 渡りの時期には運転を止めるという選択肢もあるが、半年にもおよぶ渡り期間を通して止めることはできないであろう。

まとめ
 風力発電の鳥類に対する影響の詳しい全体像は必ずしも明らかになってはいないようである(注5)。しかしながら、予防原則の立場にたてば、鳥類の移動の主要な回廊ならびに重要な生息地は風力発電計画からあらかじめ除外する必要性があると考えられる。国レベルでは、環境省が今年度「自然の回廊」の調査を始めて、2009年に全国地図を完成させるという目標を出したばかりであり、風力発電施設の計画段階に反映できるような準備はできていない。
 一方、この数年間のうちに現在の10倍もの風力発電施設の増強が国策目標として掲げられているので、地方の現場では猶予なしの対応が迫られている。風力発電の計画にかかわる事業者と設置場所を管轄する地方自治体の行政当局は、可能な限り早い段階で計画を公開し、野生生物への影響など、自然環境保護団体や専門家、市民からの情報や意見が計画に反映されるような態勢を緊急につくる必要がある。計画を練る段階で十分な情報が自然保護関係者に公開され、意見が反映されることが必要である。場所の選定が決定的に重要であり、風力発電基地の設置場所は、鳥の重要な生息地や主要な渡りの回廊を避けて計画されることが肝要である。

注1:(財)新エネルギー財団・新エネルギー産業会議(2006年3月)「風力発電システムの導入促進に関する提言」
注2: http://www.gix.or.jp/~norik/hawknet/hawknet0.html、伊良湖のタカ渡りを記録する会(2000)「伊良湖のタカ渡り」
注3: http://www.chuden.co.jp/corpo/publicity/press2006/1113-1.html
注4:市野和夫(2006未発表):「表浜の渡り鳥目視調査記録」
注5:(財)日本野鳥の会(2006年11月4日)「風力発電施設が鳥類に与える影響に関する国際シンポジウム」

* 愛知大学(非常勤)
**     渥美自然の会

図1 中部電力が公表した遠州灘海岸線に沿った風力発電計画(注3) 略

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